この童話の次話を投稿いたします。「小説家になろう」または「小説を読もう」というサイトにも投稿していましす。盗作を掲載していると思われてはいけないので、双方の作者が同一人物であることをご承知おきください。
「山火事」
あくる年の3月も終ろうとしているころでした。宗一の村は大騒ぎになっていました。
東風に乗って、こげくさい臭いと煙があたり一面にただよっています。山火事です。
大人たちはクワやスコップを持って、東を指さしては煙のくる方角にむかって行きました。
山火事は乾燥したススキの野原に燃え広がり、勢いづいてアカマツやカラマツ、サワラなどの針葉樹にも燃え移って、バリバリと音をたてて大きな炎がユラユラと上がっています。
宗一の村はこの山火事の風下なので、村人たちは何としても火を消そうと必死なのですが、なにしろ火の勢いがはげしくて容易には近づくこともできません。
宗一はいつもキノコ採りに来る、家のすぐ北西にある山に登って、山火事のおきている山の方を向いて目をつぶって、両手を合わせてあの大男が来てくれることを何回も何回も心の中でお願いしていました。
煙とこげくさい臭いがますますはげしくなってなってきました。すると、山の神様の祠のある北の方から「ドシーン、ドシーン」という地響きが伝わってきました。宗一はとっさに「きてくれた」と思いました。
大きな地響きはどんどん近づいて、宗一の後ろ辺りでピタリと止まりました。
宗一は目を開けて後ろを振り返ると、あの大男が宗一を見下ろして立ってましたが、宗一が大喜びで両手を高くあげると、大男はニコッとしてうなづくと宗一の両腕をつかんでヒョイと右の肩に乗せてくれました。
大男の肩の上から宗一は、東の方角を指差した。大男は宗一が指差した方角を見ると、山火事はススキの草原を黒く焼きつくして、周りの木を燃やしながら宗一の村の方に迫っていました。
大男は宗一の顔を見て、一回「ウン」というようにうなづくと、急いで山火事の起きている方角にむかいました。
村の男衆がクワやスコップで必死に土を盛っているところまで来ると、宗一を煙のこない北の山のてっぺんに降ろしました。大男は村の男衆の前に行きました。男衆はおどろいて転がるように村の方に逃げだすものや、その場に尻餅をついて動けなくなってしまう者もいました。
大男は「すまない」というように大きな両手を合わせると、今度は両手を開いて「下がってほしい」というように手に平を少しつきだしました。
そして、大男は火の手の上がっている方をにらみました。右手の方の山にある大きなサワラの木を二本両手でわしづかみにすると、思いきり引き抜こうとしました。地面に太い根が現れるとバリバリと音をたてて大きなサワラの木は抜けました。
大男はそのサワラの木をしっかり握りしめるて西に進むと、去年の秋、大きな岩を持ち上げて尻餅をついた時できたひょうたん型の池の前で止まりました。
大男は両手に持っていた大きなサワラの木をそのひょうたん型の池にザブザブとつけると、急いで火の手の上がっているほうに向かったのです。
そして、水につけたサワラの木を高く持ち上げると、まだ燃えていない生木をなぎ倒しながらほ炎をたたきつけるように消していきました。大きな火の粉が大男の頭や腕、背中にバラバラと落ちてきましたが、まったく気にするようすもなく火を消していきました。
大きな焼け野原をのこして、山火事は消えました。さすがの大男もハアハア息があらくなって前に倒れるようにヒザをついてしまいました。
宗一が大声で「だいじょうぶかい」と聞くと、大男は宗一のいるとなりの山の峰に腰をおろしました。
そして、宗一が大男の顔を見ると、モジャモジャのヒゲにまゆ毛はチリチリにこげていて、ボサボサの髪の毛には大きな穴がいくつもあいていたのです。ほっぺたは赤黒く光っていました。
顔を見合わせた二人は、おかしくて吹き出すと同時に思いきりワハハハハとお腹をかかえて笑いました。幸い村人たちもケガをした人もいませんでした。
里山 根子君 著
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