この童話の次話を投稿いたします。「小説家になろう」または「小説を読もう」というサイトにも投稿していましす。盗作を掲載していると思われてはいけないので、双方の作者が同一人物であることをご承知おきください。
「尻餅をついた大男」
宗一が大男に行き会ってから、二か月がたちました。山の木々は、すっかり赤や黄色に色づいて、とて
もきれいな季節です。
宗一は今日、あの大男に行き会った東の山にアケビやキノコを探しに来てみました。
宗一は、大男からモロコシをもらったあの日から、あの大男に行き会いたくて、時々一人でこの東の山の林道に来ていたのです。
宗一がいつも肩から下げている竹かごの中には、きれいな紫色のアケビがたくさん入っていました。
この日は、天気が良くて暖かい日でした。宗一は歩き疲れて、開けた林道の草の上で仰向けに空を眺めて寝そべりました。
目をつぶると、ぽかぽかと暖かくて、しばらくうとうと眠ってしまいました。すると、ドシーン、ドシーンと、体を上下にゆするような地響きがしました。
宗一はあわてて目を覚ますと、その地響きはもうすぐ近くで聞こえます。そして、急いで起き上がると、カラマツ林の上にあの大男の姿がありました。
宗一は、大喜びで両手を上げると、大男もニコッと笑って、宗一の近くに来て腰を下ろすと、ふところから温かいサツマイモを二つ手のひらに乗せて、宗一に「食べな」というように顎をしゃくった。
宗一は、両手に一つずつサツマイモを受けとると、右手に持っていたサツマイモを一口ほおばった。中は黄色で甘くてホクホクの美味しいサツマイモでした。
そして、サツマイモを大切にきれいな草の上に置くと、竹かごからいちばん大きなアケビを取り出して、大男にさしだした。
大男は首を少しかしげたと思うと、そのアケビを真ん中から二つに割って、中身をパクリと口に入れました。それはとてもおいしかったのか、大男はニコッと笑いました。
宗一はまたサツマイモを食べ始めると、大男は宗一を抱き上げて大きな肩に乗せてくれました。
宗一を肩に乗せたまま大男は、立ち上がると富士山の方角を向いたのですが、大きな岩山があって富士山はここからは見えませんでした。
大男は三歩、南に歩くとこの辺りで一番高い、ぼうず山のてっぺんに宗一を降ろして、さらに南に行ったかと思うと、富士山を隠していた大きな岩山を、右足で思いきり蹴飛ばしたのです。
するとその岩山は、ゴロンと二回転して転がりました。そして大男は、その岩山を両手で高く持ち上げたのですが、それは意外と重くて大男はバランスをくずして、西に広がる草原に、思いっきり尻餅をついてしまいました。
持ち上げていた岩山は、とっさに突き飛ばしたので、さらに西の深い沢にゴロゴロ転がって行きました。大男はゆっくり頭を上げると、心配していた宗一の方を向いて、大きな声をあげて「ワッハッハッハッハー」と笑いました。
宗一はほっとして、ぼうず山てっぺんで尻餅をついてしまいました。大男は南を見ろというように、蹴飛ばした岩山のあった方角を指さしました。
そして、その方角を見ると、宗一がカレンダーの写真でしか見たことのない富士山が、はるか遠くに見えていたのです。
大男が尻餅をついたところは、やがて、きれいな水がたまって大きなヒョウタンのような形の池が出来て、魚やサンショウウオ、トンボに水鳥などたくさんの生き物が住み着くようになりました。
宗一は東の山に来ると、必ずこのぼうず山のてっぺんに登って富士山をながめるのがとても楽しみでした。
里山 根子君 著
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